「重……」

プルプルと震える二の腕。
私はやっと階段を上り終わってグッタリと廊下を歩く。

「あ……」

教室の前で私は立ち止まった。

ドア、開けられないじゃん―……??

引きつり笑いをした私は床に教科書を置いてまた持ち上げるという作業をする気にもなれず、途方に暮れる。

「あれ?…辻宮??」
「か、河野!?」

振り返りざまにバサバサーッと教科書を盛大にぶちまける。

「ハハハッ!!…何、やってんだよ……ッ」
「~~~」

本気でウケながら河野がしゃがんで教科書を集め始めた。

「ごめんなさい……」
「別にいいよ。ってか、先生知らない? 重束先生」
「さっき、教材室にいたけど……。何で?」
「ウチの部活の新顧問でさ」
「そうなんだ」
「オレ、部長だからメニュー聞こうと思ってきたんだけど……」

途中で言葉を切って河野が笑い出す。
何が言いたいのかは大体見当がついた。

「……ごめん」
「謝らなくていいって」
「じゃあ」

私は一呼吸置いて、河野の目を見た。
虚をつかれたように河野が驚いたような顔をしている。

「ありがとね。集め終わった♪」

トントンと音を立てて教科書を揃えて重ねていく。

「あぁ。じゃあオレ、教材室行くから」
「うん。部活頑張れ」

河野は手を振る私に小さく頷くと背を向けて走り出した。

馬鹿みたい。
叶わないって、わかってるのに。
なんで

なんで身体は言うことを聞いてくれないんだろう―……??

こんなにも、河野と喋れたことが

嬉しくて

切なくて


その時間さえ、愛しい。


「やっぱ私、河野が―……」



「夏波―……」



「遥、乃!?」


振り向くと



遥乃が立っていた―……