「で、どうするの?」
バックパックのショルダーベルトを再び腕に通して、シズクは言った。
暗い夜に、黒水晶が星のようにチカリと瞬く。
「全部放棄して、逃げるワケじゃないよね?」
主語のない彼女の言葉。
それを理解できるのが、なんだか嬉しい。
仲間の『Unnamed Children』のコトでしょう?
緩んでしまう頬を隠そうともせず、柵にザイルを結びながらアオは答える。
「うん、ソレねー。
『今』限定なンだケド、思ってたより簡単に助けられそうな気がすンだよねー」
「簡単?」
「そー。
今、アイツらはさ、謎の巨大組織が『Unnamed Children』を引き抜いて、自分たちを潰そうとしてるって勘違いしてンの。
そのピリピリしたムードの中、『幹部に内通者がいるようだ』なんて大嘘流したら…」
「あぁ、内輪揉めで大変なコトになりそう」
「そー、そー。
揉めてる間も、俺らがまだ中にいる『Unnamed Children』に声をかけて、引っこ抜いたりしてさ。
それも全部、アイツらには敵の仕業に見えるだろうしさ。
疑心暗鬼で勝手に空中分解しそーじゃない?」
「ふーん…
力業一辺倒の『ならず者の夢』じゃなく、虚言で自滅を誘う『嘘つきの夢』か…
かなり面白い」
目を細めて。
軽く握った拳を口元に当てて。
シズクはクっクっとあどけなく笑った。