『r09u-E』だった頃も。
『芦原透子』だった頃も。
スキンシップ皆無な環境にいて、免疫なさすぎで、『胸キュン』が『心臓ひでぶ』に変換されちゃったってコトだろ?
要するに、不意討ちのキスを除く、あの時も、あの時も、彼女は俺の一挙一動にトキメイテくれてたってコトなンだろ…?
「や、無理しないで?
決死の覚悟でするコトじゃないンだし」
アオもまた、指の隙間からチラっとシズクを見上げて言った。
それから、ヨイショ、なんて呟きながら上半身を起こし、銀の髪を掻き上げて振り返る。
「俺、腹パンやら掌底打ちやら裏拳やら投げ技やらを何度食らっても、絶対に懲りないから。
何度でも懲りずにスキンシップ図るから。
ゆっくり慣れてくれればイイよ。
これからずっと一緒なんだから、時間はたっぷりあるでショ?」
アイスブルーの瞳が隠れてしまうくらい優しく微笑めば、また白い頬がバラ色に染まる。
コクンと頷いた拍子に、顎のラインで切り揃えられたぬばたまの髪が揺れる。
起き上がって、回れ右。
アオはシズクの正面に立ち、彼女の小さな手を取った。
振り払われることはない。
逆に、そっと握り返される。
焦らなくていい。
今はコレで充分だ。
本当のお互いを知らないまま出逢い。
本当のお互いを知らないまま、束の間、心を通わせ。
本当のお互いを知らないまま別れ。
本当のお互いを知らないまま再会して。
やっと、本当のお互いに触れて。
今、やっと。
二人は始まったばかりなンだから。