彼の首をジワジワと絞めあげる見えないはずの縄が、アオの目にハッキリと映る。


「どうして」


「おまえに死んでほしくないから。
みんな仲良く解放されるなんて夢、俺だって信じてないケド。
おまえ一人なら、なんとかなンじゃねェか?」


「おまえが死ぬぞ」


「俺のコトは気にすンな。
おまえがいなきゃ、俺はとっくに死んでた。
いや…
人間として生きてなかった」


「勘違いするな。
別に俺は、おまえのコトなんて」


「おまえ、いつも言動が矛盾してンだよなー。
優しさがバレないように、冷たいコト言って突き放すカンジ?
俺、おまえのそーゆートコ好きだよ、『Sy-u800』。
おまえは誰より人間らしかったよ。
人でなしとして扱われて、人でなしの所業を繰り返して、心まで人でなしに成り下がって…
それでもおまえだけは、人間らしかったよ。
だから…」


俺にも、最期くらい人間らしいことをさせてくれ。

そんな祈りにも似た願いを眼差しに込め、ビジネスマンはアオを見つめた。

その視線から逃れるように俯いたアオが、厚めのセクシーな唇をギリっと噛みしめる。

自己犠牲とか…

重いよ。
勘弁してよ。

あぁ、でも、俺も同じだ。

あの雨の日、人の名前をくれた幼い少女を心の支えに生き、成長したその少女を救うべく、命を投げ出そうとしているのだから。

今、隣で儚く微笑んでいるのは、もう一人の俺なンだ。