「七、瀬?」


頭上から、聞きなれた優しい声が鼓膜を震わせた。


……李雨先輩だ。


一瞬で、


__________一瞬でわかった。




わかってしまった。



「どうして、杉崎がいんだよ」


そしていきなり変わる、声のトーン。


……こわい。


果てしなく、怖かった。


とても、とても……、


怖かった。


「ご、ごごごごめんなさい…っ。こ、これ、ドリンク代です、お、お邪魔しました……っ」


私は、お金と、謝罪の言葉だけその場に残すと、お店を出た。



七瀬さんの勝ち誇った笑みを、脳裏に焼き付けながら、必死で、とにかく必死で走った。


ボロボロと、涙をこぼしながら…。


情けない声を漏らしながら。


前が、涙で滲んでよく見えない。


なにも、見えない。


全てが、滲んでいる。


何もかもが、ゆがんでいる。



「……きゃっ。」


そのせいか、私は、小さな石ころにつまずき、激しく転んだ。