「うぅ~……う」
赤ん坊は、私をまっすぐに見て泣いている。たまらず抱き上げてみれば、私にギュッとしがみついてきた。
まるで、私がいなくなることを恐るように。
そして、私の腕の中でやっと泣き止んだ後――安心したのかほにゃりと笑って。そのまま寝入ってしまった。
すうすぅ、と安らいだ寝息を聞いているうちに。心の中で広がっていくあたたかいもの。
(この子は……私を必要としてくれているんだ。この子だけが……私を頼って)
涙が、あふれてきた。
私は何も持っていなくて、死ねばすべてが消えゆくだけの無意味な存在と思ってきた。
でも、今この腕の中にいる小さな天使が。私を意味のある存在にしてくれる。自分の血は遺せなくても……この子の中に私と言う存在を残すことができる。
この赤ん坊を、我が子としようと決めた瞬間だった。
「碧(あお)……あんたの名前だよ。何があったって、あんたは私が守ってあげるから」
碧……あお。最愛の人と同じ名前を付けた。みどりと読めるその名前は、繁茂する緑のように豊かな人生に幸あれとの願い。
真っ白な雪の中で拾われ、“あお”の名前を継いだ娘が駄菓子屋を守り、“みどり”という名前の孫ができるのはそう遠くない未来のお話。