妻だろう紬を着た上品な女性と、彼にそっくりな年若い娘さんが次々に車から降りて、家族で川原で散策を始めた。

その仲睦まじい様子と、彼の思慮深い瞳が、妻と娘を何よりも愛してると語っていた。


逃げるより他に、何が出来ただろう。

40を過ぎて未だに独身で、小さな駄菓子屋を守ることで精一杯。こんな平凡な女が、あの人に相応しいはずもなかった。


夜。涙を浮かべながらお風呂に入ろうと鏡を見た時、自分のみすぼらしい姿に愕然とした。


あれだけ彼が褒めてくれた肌は張りがなくたるんでいて、あちこちにシワとシミがある。手触りがよいと喜んでくれた艶のある髪は白髪が目立ちボサボサで。お洒落と評判だった服はみっともなく着古したもの。


紬の上物を着たあの女性は、艶々の黒髪で。肌も白く苦労知らずの穏和な雰囲気。何もかも私と違った。


女性としては諦めたつもりだけど、それでも失われた年月の長さを思うといたたまれなくなった。