「ほら、たんぽぽだよ。もうすぐ春だねえ」


ぽかぽかと小春日和のある日、ベビーカーを押しながら、近所の川原を散歩した。

間もなく赤子を預かって3ヶ月になる。

身元不明の捨て子は市町村長がすぐに戸籍を作成して法務省に届けなきゃいけないけど、実はまだこの子の名前は決まっていなかった。名前を付けたら情が湧いてしまいそうで怖くて。

幸い市長は幼なじみの伯父だから、特例として保留にしてもらっていた。


やっと首が座るか座らないかという赤子は、周りを興味深そうに見ては「あ~」と何かに反応する。


「あれは車だよ。あんたには早いね」

通り過ぎた高級そうな外車に、赤子は興味津々な様子。そちらへ向かってやたらと手を伸ばすから、危ないよと笑ってたしなめた。


車が河川敷の道路に停まり、中から出てきたのは。二十数年ぶりに見る最愛のひと。偶然に驚いた私だけど、懐かしさと恋しさに自然と笑顔になっていたと思う。


どう挨拶しようか。どんな話をしようか。年を経てますます素敵になった彼に年甲斐もなくときめきながら、そわそわと近づくタイミングを計っていた私だけど。

次の瞬間、残酷な現実を叩きつけられた。