「碧……」
とろけそうなほどに甘い伊織さんの囁きが、鼓動のスピードを速める。がっちりと腰を抱き込まれて、囚われたまま。彼の熱い視線を肌に感じた。
彼の指先が私の顎をとらえて、視線を上げた先に砂糖より甘い伊織さんの瞳。近づいてくる期待に、そっと目を閉じようとして……
視界の端に、じっとこちらを見てる子どもの姿を捉えた。
思わず手のひらを向けてしまえば、バン! と見事な音が響く。意外な出来事で怯んだのか、伊織さんの拘束が緩んだタイミングで抜け出し、その男の子に話しかけた。
「い、いらっしゃい! 今日は何がいいかな?」
「碧おねえちゃん、今おじちゃんと顔をくっ付けようとしてたの?何で?」
「え~何のことかな? 気のせいだよ。うん、気のせい!」
子どもは1人だけじゃなく何人も居ましたよ! みんなまだ幼稚園児だから、今変な知識を植え付ける訳にはいきませんて。
「気のせいじゃないよ! あたしみたもん。ね、みきちゃん」
「うん! ちゃんと見たよ」
「ねえ、なんで~? なんでお顔をくっ付けるの?」
なぜなに攻撃を始めてきた幼稚園児に囲まれ、大ピンチ。なのに、邪魔をされ不機嫌だった伊織さんがとんでもないことを言い出す。
「決まってるだろう。愛し合う男女では挨拶のようなものだ……ぐ」
すみませんが、それ以上余計なことを話さないでくださいね。そんな意味で、伊織さんの手の甲をつねりました。