「うん……自分の限界を感じたんだ」
今までどこか遠慮がちだった空くんは、サッカーの話題を出した途端に顔つきが変わった。
「去年はインハイの予選で県大会に出れたけど、さ。初めてで全国レベルの相手にぶつかっちまって……結局、才能には勝てないって悟って。初戦敗退ですっぱりとやめる踏ん切りがついたんだ」
少々自虐的だけど、笑顔の空くんはすっきりとした顔で。後悔なんて微塵もしていないように見えた。
「別にプロを目指した訳じゃないし、今は大学のサークルと草サッカーで軽く蹴る程度だけどさ。俺はそれでいいんだ。今が一番楽しいよ。結果だの何だの気にしなくて済むから……好きなだけじゃどうしようもないってこと、解るくらいは大人になれた」
“好き”という言葉に、思わず身体が強張った。自意識過剰にならないと気をつけていたけど、やっぱり空くんが私を見つめる瞳に。揺らめくものを見つけてしまって。
駄目だ、このままだと……と咄嗟に話題を変えようとした。
「そ、そうだ。和室に娘が居るから。よかったら空くんも……」
「碧姉ちゃん」
空くんが力強く私を呼ぶ。せっかく流れを変えようとしても、彼はじっと私を見詰めてそれを許してくれない。
でも……
「そんなふうに慌てなくていいよ。俺だって、もう碧姉ちゃんとどうこうなれるなんて思ってないから」