「うん……大学行くかは迷ったけど、あの後やりたいことが出来たから」
「そっか……」
“あの後”というのが去年の春の後のことを指している、というのは鈍い私でも判る。
やっぱり空くんも少なからずわだかまりはあるんだな……って思わず俯いてしまった。
ずっと、ずっと。どれだけ長い間空くんは私を見て想い続けてくれたんだろう。
以前なら平然と振れたかもしれないけれど、恋を知った今の私には空くんの苦しみや寂しさや悲しみが痛いほどの解る。どれだけ切なくても、振り向いてもらえない苦しみは、一度経験しないと判らない。
きっと、そう簡単には忘れられない。軽い恋じゃないから、長い間消えなくて苦しむ。
私も、伊織さんとの別れを望みながら苦しんだ。彼のためと言い聞かせながら切なくて、やりきれなさに涙を流す。
空くんがまだ私への想いに苦しんでいるとしたら。こうして話すことも残酷なのかもしれない。もちろん、私は自分がそれほど魅力がある女性とは思ってないから、彼はまだ私を好きなはず!なんて自惚れてるわけじゃないけれど。
きっと、大学にはかわいくて綺麗な女性がいっぱいいるはず。こんな田舎のつまらない幼なじみより、洗練された輝くばかりに綺麗な女の子がいいに決まってるよね。
(そうだ、意識してちゃダメだ。私は年上なんだし、お母さんにもなったんだから……これくらい何とかできるようにしなきゃ)
うん、とひとりで頷いた私は勢いよく顔を上げて口を開いた。
「そ、そういえば、心愛ちゃんから聞いたけど。サッカーやめちゃったんだね」