時が、止まったかと思うくらいに意外な出来事だった。


だって、去年の3月……伊織さんにちゃんと告げろと発破を掛けられて以来、空くんはまったくおはる屋に来なかったんだから。


もともと近所の子どもとは言っても、和田町は広いから意識して接触しないとまず会えない。時たま心愛ちゃんが兄の近況を教えてくれたけれど、ちゃんと大学生になれたと聞いたくらいで。詳しい話は聞いてなかった。


たぶん、心愛ちゃんも遠慮していたんだと思う。初めての妊娠と出産に子育てで、身心ともに大変な私を気遣って。こちらが振った兄のことで煩わせたくないと。


この約2年で空くんに恋人が出来た、との話は遂に聞かなかった。こんな私をずっと想っていてくれた彼だから、幸せになって欲しいと願っていたのだけど。まだ引きずっていたら申し訳ないと思う。


「空くん……あの」

「久しぶりだね」


私がどう話そうかと迷っているうちに、先に空くんがにっこりと笑ったから。私も何とか応じた。


「う、うん……久しぶり。去年の春以来だね」

「すっかりご無沙汰してごめん。いろいろ忙しかったけど、やっと落ち着いたから来てみたんだ」


空くんは笑顔で屈託なく話しかけてくれる。意識してるのは自分だけかな、と恥ずかしくなって以前の調子を心がけて答えた。


「そっかぁ。もう大学生だっけ? 遅くなったけど、大学合格おめでとう」