おはる屋の店番をするのはかなり久しぶり。去年、妊娠が判ってから伊織さんに「もう働くな」って心配されて制限されたし。
働く働かないの攻防を何ヶ月か続けた後、結局安定期に入った秋ごろから店番を続けて。出産直前までここにいたっけ。
その間も伊織さんは仕事を抜け出しては顔を見に来て。腹黒い笑みの葛西さんに強制連行されるのもしょっちゅう。そんなときに私が陣痛を感じて、伊織さんに付き添われ病院に行ったのも今はいい思い出。あの後陣痛室から分娩室までずっと伊織さんが着いていてくれて、すごく心強かった。
(それでも心配性過ぎるよね、伊織さんは)
口元が緩むのが止められない。伊織さんの愛娘への溺愛ぶりは周りをドン引きさせるほどだけど、相変わらず私にも甘くて優しい。雪の予報があっただけで、昨日新しいコートやブーツを買ってきてくれたくらいだし。
恥ずかしいけれど、愛されてるなあ……って幸せを感じる。
あんな出逢い方からまさかこんなふうに、本物の家族になれるなんて思いもしなかった。
ましてや2年前の初めてのクリスマス。伊織さんが現れなくて絶望したあの日。あれでお別れすると決めたのに……伊織さんの愛情でこうして本物の夫婦になれた。
「信じられないくらい幸せだなあ」
思わず呟いてると、足音が聞こえて顔を上げる。
「いらっしゃいませ……あ」
思わず息を止めてしまうほど驚いた。
だって……彼は。
「碧……姉ちゃん」
……2年近くぶりに会う、大学生になった空くんだった。