結婚3年目になる12月。藤の花が満開になる頃に生まれた長女のみどりは9ヶ月になる。
体重も10kg近くなって、かなりずっしり。言葉らしきもののやり取りも増えてきた。
「おばあちゃん、店番代わるからみどりと遊んでくれる? 心愛ちゃんも可愛がってくれるけど、みどりは目が離せない年齢になってきたし……」
「そういや、つかまり立ちは出来るのかい?」
「うん。ハイハイも上手になって、良いところがあればすぐ立っちしてるよ。引き出しも開けられるようになったから、いろんなもの出して散らかすし……それに。おばあちゃんだって一日中店番で疲れるでしょう。たまには息抜きしなきゃ」
「ふん、あんたに心配されるほど疲れちゃいないよ」
「だけど、ご飯だっておにぎりでササッと済ますだけでしょう?焼き芋焼いてきたから、休憩がてらちょっと食べてきてよ」
私が一生懸命に言い募ると、おばあちゃんは老眼鏡を外し、レンズに息を吹き掛けて磨きながら掛け直す。
「まったく仕方ないねえ……そうまで言うなら、ちょっと茶でも飲んでくるかい」
よっこらしょ、とおばあちゃんは腰を叩きながら立ち上がる。
「はいはい。ちゃんと見てるから、おばあちゃん。みどりをよろしくね」
素直じゃないおばあちゃんに苦笑いしながら見送ると、何ヶ月かぶりに店番の定位置に腰を下ろした。