「碧お姉ちゃん、寒いから中に入らないとみどりちゃんが風邪ひくよ。ほら、早く早く!」
「はいはい」
心愛ちゃんがみどりを抱いたままおはる屋へと促してくるから、微笑ましい気持ちで彼女の後に続いてお店へ入る。古びた木枠のガラス戸を開けば、時間が止まったような店内へ。
一畳ほどの畳敷きの小さなスペースには木の棚が置いてあって、その上に何十年と使われてきた年代物のレジスター。その後ろには、老眼鏡を掛けて新聞を読むおばあちゃんの姿があった。
さすがに冷え込む時期だから、石油ストーブを焚いているみたい。だけど、雪も降るのにまだ割烹着しか着てないんじゃ、薄着じゃないかって心配になる。
「おばあちゃん、身体が冷えるよ。ちゃんと半纏を着ないと風邪ひいちゃうって」
「うるさいねえ。これでも自分の身体は自分が一番よくわかってるって言ったろ。こんな年寄りのことより、あんたは自分の子どもを優先して考えな」
相変わらずおばあちゃんは素直じゃないな、とため息を着いた。義理とはいえあたしのお母さんとおばあちゃんなのだから、ひ孫が遊びに来て嬉しくないはずなのに、相好を崩したりすることもない。
だけど、私は知ってますよおばあちゃん。
いかにも無関心なふうを装っていても、チラチラと新聞越しにみどりを見ては口元を緩めていることを。
そして、とあるデパートの子ども服売り場に足を止めて見入っていたと。子ども達がこっそり教えてくれた。
おばあちゃんだって、孫が生まれて本当は喜んでくれてる。それが何より嬉しかった。