「え?」
美里さんは何を言われたかわからない、というような顔で目を瞬く。正男は臆することなく、彼女をまっすぐに見返した。
「そいつはオレの娘。経緯がどうあれ、オレにも責任はあるだろが。おまえは一人で産んだかもしれねえが……作ったのはオレでもある。父親にとは言わねえが、あんたが育てるのが苦しいのは判った。だからな、せめて金銭的な援助はさせてくれや。あんただってシングルマザーで父親が知れねえガキを連れてきゃ、親だってあんたを怒るし責めるだろ? 1人怒られるよか、2人の方がマシだろ」
「正男さん……」
「騙したオレが言えるこっちゃないが……本当はあんたを捨てたつもりなんざ無かった。なのにあんたから連絡を絶たれたからな。未練はないと突っ張ったが……ホントはずっと気になってたんだ」
「…………」
美里さんはうつむいてしまうと、ギュッと美鈴ちゃんを抱きしめる。そして、ぼろぼろと涙を流し始めた。
「私は……怖かったんです。妊娠を告げたら捨てられると。間近な人が同じ状況で相手に逃げられ、泣いていたことを思い出して。だから……私からさよならしなければと」
でも、と美里さんは濡れた瞳を正男に向けた。
「きちんと話せばよかったんですね……ごめんなさい……あなたを信じきれなくて」
しゃくりあげる美里さんの肩に、正男は手を乗せる。そして、こう言った。
「仕方ねえよ……オレを信じられないのは。だがな、これからは心を入れ替えるつもりだ。いつかこいつが成長した時オヤジと呼ばれても恥ずかしくないように。だから、待ってろよ美里。いつかおまえたちを迎えにいくからな」
そう言い切った正男は、別人のような清々しく頼もしい一人の男性としての顔になってた。