「……おい」

「はい?」


美里さんに声をかけたのは、意外なことに正男だった。彼は何かを決意したように、思い詰めた顔をしている。


「美鈴、だっけか……そいつ、オレの子どもで間違いねえな?」


正男が確認するように問いかけたけど、美里さんは一瞬目を開いたあとにゆっくりと首を横に振る。


「……いいえ、この子は誰でもない、私だけの娘です」

「んな訳ねえ!だってあんたはあん時初めてだったろが! それでこいつを……」

「違います! 美鈴は……美鈴は……私が育てます。お話ししたように、あなたに責任を求めるつもりはありません。そっとしておいてください」


正男から守りたいように、美里さんは娘をギュッと抱きしめる。そして、彼にしっかりと目を向けた。


「私は……美鈴を産んで後悔はしてませんが、あなたにだけは申し訳ないと思います。あなたは望まないのに勝手に父親となった……何も知らせずに父親にするなんて理不尽、お怒りになるのも当然。でも……その恨み辛みは私だけに。美鈴には何の罪もありません。どうか美鈴が生きることは許してください」


謝罪のため深々と頭を下げた美里さんに、正男は「は!」と鼻を鳴らした。


「そりゃ不愉快に決まってら! だから、あんたにゃ責任を取ってもらう」

「はい……」


普通は正男が責任を取るべきなのに、あべこべな話に思わず口を開きたくなるけど。伊織さんに肩を掴まれ止められた。無言で“見守ってやれ”と諭され、仕方なく成り行きを見守る。


そして、正男は意外なことを言い出した。


「責任を持って、オレを鹿児島に連れてけ。あんたの親に会わせろ」