突然正男がそんな話を出すとは予想外だったのか、美里さんは目を見開いてる。そんな彼女に焦れたのか、正男は眉を釣り上げた。
「あんた、真面目にやってきたんだろ! 正社員に負けないって頑張ってたじゃねぇか。
やっと認められたとか笑ってただろ。それなのに……どう考えても不当解雇だろ! 何でホイホイ受け入れちまうんだ」
肩を怒らせた正男はその場で拳を床に叩きつける。その音にビクッと体を揺らした美鈴ちゃんが、ふぇえ……とむずがり出した。
「美鈴、大丈夫。大丈夫だから」
実の母親だからか、美里さんが少しあやしただけで美鈴ちゃんは落ち着く。やっぱり実母は違うんだなあ……って、寂しく思いながら見守った。
「……ありがとうございます、私のために怒って下さって。でも、もういいんです。あの会社に未練はありますが……両親に頭を下げて一緒に暮らす許しをもらってきたんです。 父のつてで短時間の事務の仕事も見つかりましたし。
これで、何とか美鈴を育てる目処がつきましたから。明日にも地元に帰ろうかと。
今まで申し訳ありません……お世話になりました。
正男さん、美鈴を産んだのは私の決めたことですから、あなたに責任を求めるつもりは一切ありません。
ですからご安心ください。鹿児島に帰る以上もう二度とお会いすることも、関わることもないでしょう」
美里さんはそう言い切って静かに微笑んだ。全てを振り切ったような清々しい笑顔は、二度と美鈴ちゃんを手放すような迷いは感じられない。
やっと美鈴ちゃんはお母さんと一緒に幸せになれる。これでよかったんだ……と思ったのだけど。