「美鈴……ごめんね、ごめんね」
おそらく母親だろう女性は、美鈴ちゃんを抱きしめさめざめと涙を流した。誰もが何も言わずに見守るなか、彼女は美鈴ちゃんを抱いたまま顔を上げる。そして、周囲へ深く頭を下げた。
「私は美鈴の母である結城 美里と申します。この度はとんだご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」
「あなたが……美鈴ちゃんのお母さん」
「はい……」
私がもう一度確認するように問いかけると、目を濡らしたまま美里さんはしっかりと頷いた。
「……実は……つい先日パート先から解雇を言い渡されてました。理由は不明でしたが……事情を知る情報通の同僚によると……美鈴の存在を知った桂の圧力でないかと。私が美鈴を盾に……父親に……伊織さんに結婚を迫るのではないかと。だから……追い出そうとしていると」
「実際には伊織さんではなく正男さんが父親でしたが……」
「……はい。私もつい先ほどお知らせいただきました」
美里さんはハンカチを握りしめて正男をちらっと見た。
正男は憮然とした顔をしている。さっきは愁傷な態度だったけど、自らを偽って騙した上に妊娠までさせた相手を前にしているからか、やはり平静ではいられないらしい。
けど、彼の口から出たのは想定外の言葉だった。
「……ほら、見ろ。あのババアどもは息子だけでなく、嫁や孫まで思い通りの型に填まらないと排除しようとしてるだろうが。あんな連中の思い通りになって、おまえは悔しくねえのかよ!?」