「…………」
正男は“関係ねえ”って凄むと思ったけれど、何かを感じたのか案外大人しく美鈴ちゃんを抱いたまま。その顔をジッと見てる。
誰もがその動向を見守る中……ぽつり、と正男がこぼした言葉は意外なもの。
「ババアに……抱きしめられた記憶なんざねえ……」
ババアなんて言い方は悪いけど、たぶんお母さんのことだ。正男は口元を歪めて皮肉な笑みを作る。
「……親が揃ったってな、ガキがしあわせって限らねえんだよ! あれこれ口し出されてオレの意思なんざ一度たりとも聞いてい貰えた試しがねえ。オレが……バイクが好きで働きてぇっつっても……“桂の人間には相応しくありません”ってなもんだ。ただガチガチに縛られた道を歩かせるのが親で、そんなのでも幸せって言えるのかよ!」
正男はそれだけ叫ぶように喋ると、驚いてむずがり出した美鈴ちゃんを見て口を歪めた。
「親なんざ、居ねえ方がいい時もあるんだよ!
こんな下らねえ親父なんざ居ねえ方がコイツのためだろ……
オレだって分かってっさ。てめえがろくでなしで大した人間じゃねえってな。
ガキを育てるなんざ責任、背負いきれねえよ。まだガキ過ぎるオレには荷が重いだろ」
ふっ、と眉尻を下げた正男は美鈴ちゃんを私へ向けて差し出す。
「オレが言えることは……金なら払う。だけどな、こいつの親父はもっと別のマトモな男がなるべきだろ。オレみてえなろくでなし……親父にはなれねえ。なっちゃいけねえんだ」
そう言い切って美鈴ちゃんを手放そうとした瞬間……
美鈴ちゃんを呼ぶ声が聞こえて、すぐに彼女は別の腕の中へ収まる。突然現れた見知らぬ女性は美鈴ちゃんをギュッと抱きしめ、ごめんなさいと泣いていた。