伊織さんが何かを言いたげな視線を向けてきたのは知ってる。だけど、今は私に任せて欲しい。そんな思いを込めてちらっと伊織さんを見たら、彼は仕方ないというふうに嘆息した。


まだ呆然としている正男は案外打たれ弱いのかもしれない。それに漬け込んで、私は彼の両手を美鈴ちゃんに触れさせた。


そして、正男が美鈴ちゃんを見たことを確認すると、その手を添えるだけでなく抱っこの形にして美鈴ちゃんの体を持たせる。落とさないよう慎重に気をつけながら、美鈴ちゃんを正男に抱っこさせた。


「……おい!」


その重みからようやく我に返ったらしい正男は、困惑を顔に浮かべながらも落とそうとはしない。私は美鈴ちゃんに手を添えながら、正男へ話しかけた。


「ずっしり重いでしょう? それが、命の重みです。
あなたのお母さんもこうやってあなたを抱きしめて守り育ててくれたから、あなたは大人になれたんです」


だけど、と私は言葉を一旦切ると美鈴ちゃんの頭を撫でた。


「美鈴ちゃんは……お母さんから捨てられた。でも、まだ大丈夫……これだけ健康そうならきっと、本当に要らないから捨てられたんじゃない。きっと問題が解決したら迎えてくれるはず。でも……私は……迎えてくれるお母さんもいませんでした。だって……私は生まれてすぐ雪の中で捨てられた。最初から要らない子どもだったんです」

「…………」

「おばあちゃんが見つけてくれなければ、私はきっとすぐ死んでました。おばあちゃんは血が繋がらない私を育ててくれたんです。だけど……やっぱり“お母さん”は特別。“お父さん”も……どれだけ会いたくて泣いたか……」