「は、知らねえよ」


鼻を鳴らした正男は反省する素振りすら見せず、美鈴ちゃんを見ようともしない。


「元はと言えばナマでもいいっつったあの女が悪ぃだろ。うぜぇんだよ! 勝手に妊娠して勝手に生んで。オレは知らねえ……っつかさ、むしろオレは被害者じゃね? オレはガキが欲しいなんざひとっことも言ってねえっつうに、あの女はガキを勝手に腹で育てて勝手に産んだんだよなあ?
それでオレに責任取れって? おかしくね!?
オレぁ、今の今まで何も知らなかったっつうの。なのにさ、なんでオレだけ責められなきゃなんないの? ぜってぇオカシイだろが!
ガキなんざ腹にいる時にちょちょっと処分すりゃよかったんだろ!そんなガキ、誰がいるかよ!!」


パンッ!!


気がついたら、手が勝手に動いて正男の頬を打っていた。


あまりに身勝手で幼稚で……耐えられない雑言だったし、何よりも美鈴ちゃんの存在を否定し命を軽んじる発言が到底許しがたかった。


正男は激昂するかと思っていたけれど、赤くなった頬を晒したまま呆然としてる。たぶん、彼を叱る人が……注意をする人が間近にいなかったんだろう。歯止めを知らない幼いままの彼は増長し、自信過剰で生意気な性質で大人になれなかったのだと思う。


そんな彼に、美鈴ちゃんを預ける訳にはいかない。その結論は早くに出たけど、だからといって正男をこのままにはしてはいけない。私は、呆けてる正男の手を取ると、美鈴ちゃんの体に触れさせる。


無論、彼が暴れたり暴力を振るわないよう慎重に見極めながら、彼にぬくもりが伝わるように願った。


「……あたたかいでしょう? これが、命ですよ正男さん。美鈴ちゃんはあなたの血をわけた……あなたと同じ一人の人間なんです」