「どうしたのかな? ごめんなさいも言えないのかな、良家の“お坊っちゃん”は。頭と鼻だけ高くなるよう育てられて、悪いことをしても謝らなくていいって育てられてたの?」


かなりご機嫌斜めになったらしき葛西さんの、痛烈な嫌味に正男の肩が揺れた。そこまで言われれば、どれだけ鈍くても葛西さんの言葉が辛辣なのは察せたに違いない。


和泉家のリビングルームで伊織さんと葛西さんに挟まれた正男は、まさに前門の虎後門の狼状態。決して逃れられないけれどなかなか口を開かない彼に、私は思わず美鈴ちゃんを抱き上げる。


そして、彼の目の前に子どもを連れてきて顔を見えるようにした。


「正男さん……あなたの血を分けた子どもですよ。美鈴ちゃんって言うそうです」

「……美鈴?」


怪訝そうに呟いた正男は、猜疑心に満ちた目でこちらを見てきた。


「同情を買って俺に育てさせようって魂胆だろ。誰が、この若さでガキなんざ居るかよ!あの女が知らないうちに勝手に産んだんだ。俺が責任を取る義務なんざねえよ。しかも、その女はガキを捨てたんだろ。なら、女に押し付け直せば済む話だろ。巻き込むんじゃねえよ」


ふん、と正男はそう言い放ちそっぽを向く。まるで小学生レベルの言い分に呆れた。外見は真面目に見えても、中身はそうそう変わらないらしい。


だけど、と私は正男を見据えて美鈴ちゃんを抱き上げた。


「確かに美鈴ちゃんは捨てられたかもしれませんが、決して蔑ろにされてはいなかったと思います。むしろ大切に愛されてここまで成長した。きっと美里さんはシングルマザーでも、一生懸命育ててきたはず。たった一人で生んでこれだけ育てるのがどんなに大変か、あなたに解りますか?」