私、無意識に伊織さんを誘ってたの?
うわぁあ、と全身の熱が顔に集まる。
恥ずかしいどころじゃない。今すぐどこかへ隠れてしまいたい。顔だけでも隠したい! そんな思いから、両手で顔を覆ってうつむく。
そんな私に、伊織さんから意地悪な声が聞こえた。
「顔を、隠すな」
「だ、だって……私……なんてはしたないことを。ごめんなさい」
耳まで熱いから絶対に真っ赤になってるだろう顔は、とても伊織さんに見せたくない。なのに、彼の手はいともあっさりと私の指を顔から剥がす。どんなに頑張っても、私の抵抗なんて些細なもので。彼は私の顔を露にすると、両手で頬を包み顔を上げさせられた。
「大丈夫だ。おまえが鈍いことは十分に解っている」
「……」
それ、ストレートに私が鈍くてどうしようもないやつだ、と言ってますよね? ちょっと落ち込みながらも、伊織さんのぬくもりを感じてドキドキが止まらない。
ふ、と小さく噴き出す声が聞こえたあと、閉じたまぶたに柔らかなあたたかさを感じた。
――え?
右の次は、左。それから頬。ゆっくりと落ちてゆくあたたかさは、次第に近づいて――とうとう、唇の横に感じられた。
もしかして……今のは。
堪らなくてぱっちりと目を開くと、伊織さんは悪戯が成功した子どもみたいにニヤリと笑う。それだけで、息が詰まりそうなほどに彼にときめきを感じた。
「おあずけを食らわすなら、これくらいは許してもらえるだろう?」
「おあずけ……って。犬ですか」
思わず噴き出すと、ああと伊織さんは頷く。
「そりゃそうだろ。結婚して1年以上お預けを喰らってきたんだ。ご褒美くらいはもらうぞ?」