「……………」
あ、あれ?
伊織さんから何の反応もない。もしかして、呆れられた?
気になって伏せていた顔を上げようとすれば、なぜか急に目の前に手のひらが広げられた。
「えっ……と、伊織さん? どうかして……」
「……見るな」
「え?」
「いいから、見るな」
見るなって、何を? 具体的な単語がなくてわかりませんってば。訝しく思いながら、チラッと見えた伊織さんの横顔は……耳が赤かった。
って、……え?
(伊織さんが……赤くなってる?)
どういうことだろう、って首を傾げていると。顔を隠すように手のひらで覆った伊織さんが大きなため息をついたから、もしや体調不良かと心配になる。
「伊織さん! もしかすると風邪をひいたんですか? なら、横になってください。今、ベッドを整えてきます。とりあえず椅子に座って」
彼の手を引いて座らせようとすれば、再び伊織さんのため息が吐かれた。
「……おまえ、わざとか? わざと煽っておれを誘ってるのか?」
「え?」
煽るだとか誘うだとか、意味がわからなくて目を瞬くと。伊織さんは指の間から私を見据える。
「おまえがその気なら、おれはもう遠慮しないぞ。それでもいいのか?」