伊織さんは意外なことを美帆さんと話してた。


「碧が気分転換に出掛けたいなら、私は止めない。だが、私と一緒にが最低条件だ。それから、男と2人きりになどさせない」


(え、伊織さん聞いてたの!?)


いつからこの会話……というか電話を聞いていたんだろう?

だって、伊織さんは太郎と花子……それから金魚の子ども達のお世話にかかりっきりで。私のことは二の次三の次だったはず。


頭の中に大きなクエスチョンマークが乱舞してる中で、いつの間に会話を終えたのか伊織さんは私にスマホを返した。


だけど……なぜでしょう?


スマホを取ろうと手を伸ばしただけなのに、がっちり手首を掴まれているのは。


しかも、伊織さんの不機嫌なお顔が復帰してますよ。一年前は毎日見てたけど、最近は穏やかで優しい笑顔しか見なかったのに。どうしてそんなにも射殺しそうににらむのですか。


私、別に何もしてないよね? むしろ伊織さんを第一に考えて、彼のしたいようにさせてあげてる。ガマンだってしてきた。


なのに、どうして責められるような目付きで見られなきゃいけないの? 理不尽過ぎる。


流石にムッときて、彼に訊ねようと口を開いた。


「伊織さん……あの」

「不満か?」

「え?」


ぽつり、と落とされた言葉がすぐには飲み込めなくて、目を瞬いた。


すると、今度ははっきりと口にされる。


「不満があるなら、おれにぶつければいいだろう。そんなに頼りないか?おれは」