それからしばらく無言の時間が流れた。
雑誌や新聞を全くと言うほど読まない貴久は、喫茶店に置いてあるテレビを見ているようだった。
先に話しかけてくるのはいつも彼の方からだった。
今回もやはりそうだった。
でも、いつもと何か様子が違うようだった。
それは、彼らしくない……ちょっと遠慮したような言い方だった。
「なぁ……お前に頼みがあるんだけど」
雑誌から顔を上げた僕は彼の顔を見た。
普段なら彼の言葉に耳を傾ける程度だが、今回は無意識に彼の表情を伺ってしまった。
それだけ僕は、彼の言葉に何か重要な意味があるように思えたのだろう。
案の定、彼の目は真剣だった。
でも、その目の奥には本当の何かを隠しているようにも見えた。
『なに?俺にできることなら……』
彼は少し言いにくそうに言葉を並べた。
「あのさ……あの……」
『うん』
「お前さ……」
『なに?お前らしくないな』
僕が笑っても、彼は表情を変えなかった。
「いや……お前、あの人と仲いいじゃん?」
『美貴さんのこと?』
「うん、それでさ……」
『それで?』
「できたらでいいんだけど……誘ってみて欲しいんだ……」
貴久が何を言おうとしているのか僕にはわかった。
というよりも、直観的におおよその見当がついた。
だから僕はすぐに頷いて答えた。
『いいよ。つまり天野さんを美貴さんに誘ってもらって、4人でどこかに遊びに行こうってことだろ?』
僕がそう言うと彼の表情は安心したように明るくなった。
僕の直感はどうやら的中だったらしい。