『しっ!だからお前、声が大きいってば!』


彼は「ごめん」と言ってお冷を一口飲んだ。

少し落ち着いた彼は、今度はガーターよりも小さな声で訊いてきた。


「やっぱり……付き合ってるの?」


僕もそんな彼の声に合わせて答えた。


『いや……残念ながら貴久が考えてるようなことはないよ』


そう言うと、彼の声はピンが半分倒れたくらいの大きさになった。

しかも今度はスプリットだ。


「俺が考えてるようなこと?」


『そう』


「なんだよ、それって」


『さぁ?お前が一番わかってるんじゃない?』


彼の次の言葉はなかった。


どっちにしても、と僕は続けた。


『あの人とは付き合ってないから……』


貴久の表情が少し沈んだように見えた。

彼はもっと違う答えを待っていたのだろう。

僕もそのことには気付いていたが、実際、付き合ってないのは事実だったから仕方のないことだった。




視線を厨房の方に向けると、そこから出てくる美貴の姿が見えた。

彼女はそのままトレーを持って近づいてきた。


「はい♪お待たせ」


そう言って、慣れた手つきでテーブルにアイスコーヒーを並べる美貴の横顔を、貴久はチラチラと見ていた。

おそらく彼が抱いていた疑問は、僕にだけではなく、彼女にも向けられていたのだろう。

でも、この場で訊けるほど彼は無神経な男ではない。

結局、美貴がまた厨房に戻ったのを確認してから、彼が声にしたのは「ま、どっちでもいいけどな……」という言葉だった。