『病気ってそんな……すぐ治るんだろ?』


僕の胸の中は、すでに焦りと不安に支配されていた。

だけど心は、それを信じたくないという希望的観測のもとにあって、自分でも理解出来ない心境を作りだしていた。


「私もそれは詳しく聞いてないの……ただ」


『ただ?』


「去年もそれで急に田舎に帰って……。ごめん、知らないとか言ってたけど……じつは私、知ってたんだ。千鶴がいなくなった理由とかいろいろ……」


美貴の声はだんだんと小さくなり、語尾はほとんど聞き取れなかった。

ずっと繋いでいた視線を逸らし、忙しく瞬きを繰り返しながら彼女は俯いた。


「私……知ってたのに……」


『美貴さんは悪くないよ……千鶴に……黙っててって言われてたんだろ?』


「でも、私……」


『ううん。ありがとう、美貴さん。辛かっただろ?……ごめんね』


美貴はついに声を出して、本格的に泣き始めた。

僕も涙を流していた。

だけど、悲しみを分け合える人がそばに居ることで、僕は思った以上に冷静でいられたし、彼女の涙は僕の悲しみの慰めになった。