***




「それ……嘘よ」


美貴のその一言は、彼女自身の悲しみを解き放つ言葉になった。

その真実を僕に伝えることで、彼女はもう僕に対する強い自分を演じる必要がなくなったのだ。

それでも美貴は、僕と繋いだ視線を逸らすことはなかった。

僕は黙ったまま、彼女の瞳にその真実を問いかけた。


「千鶴のお母さんが……入院するってこと」


『それが嘘って……どういうこと?』


「だから……入院するのはお母さんじゃなくて」


美貴はそこで一度話すことをやめて、唇にグッと力を込めた。

そして、溢れ出す涙を懸命に堪えながら、震える声で言った。


「千鶴が……入院するの」


僕には、美貴が言ってる言葉の意味がわからなかった。

いや、わかっていたのだけれど、それを正しく理解するのにかなりの時間がかかった。

しばらく考えて、やっとそのことを頭で理解できた時、美貴の涙の理由にやっと気付いた。


『つまり……千鶴が病気だってこと?』


美貴は黙って頷いた。