助手席に座った美貴は、体をシートに預け、ずっと黙ったままぐったりしていた。


『美貴さん?』


僕が声をかけても反応はない。

とりあえず僕は車を動かして、美貴の家の近くの公園に向かった。

居酒屋から美貴の家までは、車で15分くらいの距離だった。

その間も、美貴はその体勢をほとんど変えることなく、やがて、車は美貴の家の近くの公園の駐車場に着いた。

僕は車を、駐車場の一番目立たない場所に停めて、もう一度美貴に声をかけた。

だけど、彼女の反応はなかった。

もしかしたら眠ってるのかも?と思った僕は、とりあえず彼女をそっとしておいた。

それからしばらく僕は起きていたはずだったが、美貴が僕の名前を呼ぶ声が聞こえた時、自分がいつの間にか眠っていたことに気付いて、僕は現実の世界に引き戻された。


「智?ごめんね?」


『美貴さん?大丈夫?』


「ちょっと飲みすぎたかなあ……でも、大丈夫。こんなのしょっちゅうだから」


まだ頬がうっすらとピンク色に染まったままの彼女はそう言って笑った。

だけどそれは、僕に気遣っての嘘だということを僕は知っていた。

だから、あえてそのことには触れずに話しを変えた。


『そっか……美貴さんはお酒強いもんね。あ、今日一緒に飲んでた人達は?』


「あれは高校からの友達。よく誘われるんだ……何?ヤキモチ?」


彼女は身を乗り出して僕の顔を覗き込んだ後、すぐにシートに座り直して「そんなわけないかー。」と溜め息混じりに言った。