千鶴が言いかけた言葉の続きに不安を感じて、僕はそれを遮った。

彼女の僕を見る眼差しが、この先の続きの言葉がただ事ではないことを予感させた。


『いいよ。言わなくていい』


「でも……」


『聞きたくない。今日は……聞きたくないんだ』


「智……そうじゃないの」


『そうじゃなくても何でも……今日は聞きたくないんだよ』


「智……」


『今日はこの幸せな気持ちのまま……一緒に居たい』


「私も……」


『……うん』


「私もそれでいいのかな……」


『うん、それでいいよ』


千鶴はそれ以上言葉を返さなかった。

ただ、僕の手を強く握り返した。

僕もそれに答える様に、強く握り返した。


それから二人の間を、ゆっくりと時間は流れていった。

僕は千鶴の存在を繋いだ掌に感じ、そして、その温もりに幸せを感じていた。



そうやってどれくらいの時間が経ったのだろうか。

ふと千鶴の声が、耳に届いた。


「……ねえ」