それから僕たちは毎日のように連絡を取り合うようになった。

仕事から帰って来て、夜の決まった時間に彼女と電話をする。

でも僕には千鶴との距離が縮まれば縮まるほど、彼女に聞き辛くなっていたことがあった。


それは、千鶴の彼氏のことだった。


彼女は、電話で彼氏のことは一切話さなかった。

それどころかそんなそぶりさえも見せない。


「千鶴と会っていなかった間に彼氏とは別れたのかな……」

僕は勝手にそんなことを考えていた。

でも直接、そのことを彼女に訊くことは出来なかった。


彼女と一緒に過ごす時間が楽しくて幸せで仕方がなかった。

僕はそれを自分から失いたくなかった。

怖かったのだ。

僕からそのことを訊かなくても彼女はその話をしてこない。

ならば、千鶴の口から彼氏の名前が出てくるまで黙っていよう……そう思った。


でもそれは当然、間違いだった。

もっと早く……彼女との距離がこんなに近くなる前に、勇気を出して訊いておくべきだった。


そのことに僕が気付いた時にはもう手遅れだった。


僕は気付かないまま千鶴との時間を過ごし、幸せな日々に思い出を重ねていった。