妖怪アパートの問題児と先










(あ、今日金曜日じゃん。)








ふと黒板をみて柚木は思った。

黒板の端っこの日付と日直の名前。


きょうの日直は…
なんて、柚木には関係ないので見ていない。


重要なのは、金曜日である事。










『タァコ、ごめん。今日一緒に帰れないっ』






お昼休みが終わり、5時間目が始まるちょっと前の休み時間に
柚木は前の席の田代に言った。



田代はちょうど机からノートやら教科書やらを出しながら一瞬何のことかとはてなを浮かべたが、
すぐに意味を悟り、振り返ることなく軽く返事をした。






柚木は金曜日の放課後に、カウンセリングを受けている。

不眠症の事と昔あった事についてだ。

不眠症で、カウンセリング??
と思う人もいるかも知れないが、
それについては後ほど。。。




だから毎週(ほとんど)金曜日の放課後は、
いつも一緒に帰っているメンバーとは一緒に帰れない。


帰りは大体夕士か田代と一緒に帰っている。
または3人。










5時間目開始を知らせるチャイムが響く




授業科目は…



・・・・・英語。

























英語の担当教諭は今年の秋に千晶と同じく入ってきた、



青木先生だ。






清楚で、おしとやかで、美人で、
長い艶やかな黒髪がとても似合う。

授業もすごくわかりやすい。





……………






……………だが。




稲葉や、柚木、田代たちからの評判はすこぶる悪い。




青木は、困っていたり、悲しんでいる生徒に親身になって助けを出す。


だから、柚木も夕士もとても親切にしてもらった。


なにせどちらも両親がいないからだ。



青木からしてみれば、


「稲葉くんも柚木さんも、ご両親がいらっしゃなくて、一人暮らし・・・・・
…大変な事ばかりだろうから、教師である私が力にならなくっちゃ!」




と言う感じなんだろう。






だがしかし。






べつに稲葉も柚木も、そこまで悲しんでいないわけで。




確かに辛いこともあったが、別に今はそこまで落ち込んでもいない。

両親との別れから随分たって、現実と向き合い、大人になったからだ。





それでも青木はまるで、
可哀想な子を見るように接してくる。






‘一人暮らしで傷ついている可哀想な子’

として、


二人に接している。






だから、当てはまらない二人には、いらっとくるわけで。



もちろん、当てはまる生徒もいる。














「今日は、聖書の朗読をします。

私の好きな部分の朗読よ。

意味はわからなくていいの。
英語を聞くことが大切なのよ。」










静かで透き通るような声で、
青木が朗読を始めた。








べつに嫌いなわけではないが…やはり面倒な性格だ。





千晶なんて、



「煙草は体にも毒ですし、生徒にも悪影響ですわ。
お辞めになった方がよろしいですわよ。」




と、言われたのに対して







「大きなお世話です。」







なんて返してくれたのだから
その場にいた柚木も夕士も吹き出すのをこらえるのに必死だった。
















そんな青木の授業が終わり、今日が5時間授業である事もあり、ぞろぞろと皆が帰り支度を始めた。




柚木と田代と夕士は、英会話クラブに入っている。


だが今日の活動はない為、早速帰り支度をしていた。









ほどなくして帰りのHRが始まり、明日の連絡、今日の反省などをした後、解散となった。









桜「あ、柚木今日あれかぁ。じゃあ、また明日ねっ!」



垣内「じゃね、みんな〜」







桜は田代と帰宅、
垣内は部活へと向かった







『皆気をつけてー!ウッチー部活がんば!』







各々に手を振る。





さて、自分も帰り支度をするか!

と席を立った時


夕士に声をかけられた









「柚木、きょうあれだろ??」




『うん。そだよ。』






「そっか。じゃあ先帰ってんな。」










そう言って夕士も教室を出ていく




『おうよ!じゃねー!』







夕士がかるく手を上げて出ていくのを見てから、柚木は準備を始めた。






準備を終えた頃には、教室にはほとんど人はいなかった。





グラウンドから部活をしている声がする。




吹奏楽部が練習しているのか、どこからか音楽も聞こえる。







バックを机の横にかけ、席に座って
頬杖をついた。





もう誰も居なくなった教室に、僅かに周りの音がする。








しばらくぼんやりしていると、
カウンセリングの先生がきた。

















「おぅ。遅くなって悪いな。」








教室に入ってきたのは、千晶。







そう。田代たちは知らないが、
カウンセリングの先生というのは
担任であり、生徒指導担当でもある

千晶だった。










『いえいえっ。忙しいですか??』






千晶は柚木の前の席…つまり田代の使っている椅子に横向きで座り、
柚木の方を向いた。







「ん、まぁな。羽川の方も、毎回悪いな。」




『いやっ、こちらこそですよ。』










この時間を提案してきたのは、千晶の方だった。






毎週欠かさずではないが、月に1、2回はこうして時間をとってくれる。









「…で、本題なんだが。…

・・・・・最近はどうだ??眠れてるか?」








千晶がちょっとトーンを下げて問う。




『はい。それなりに寝てます^^』









…………………………






何も言わずに、千晶が柚木を見る。



そのまっすぐで何もかも分かっているような目に、程なくして柚木は折れてしまう。







『・・・・・っ・・・・・


……………はぁ。



・・・・・そうですね。寝てません。』









観念して柚木がはけば、千晶も硬かった表情を少し緩めた








「最初からそう言いなさい。
みてりゃわかんだよ。」






『…はーい。』








ちょっとふてくされたように柚木が唇をとがらせるが、千晶はそのまま続けた






「・・・なんとかならんもんかねぇ。・・」







『なったらいいですよねー。』

まるで他人事な柚木に、若干呆れる千晶である。















さて。



なぜ、不眠症なだけでカウンセリングなんてするのか。






それは、ただの不眠症ではないからだ。






もちろんそれを知っているのは千晶と夕士、そしてアパートの住民の一部だけだ。



ほぼ人に言わなかったことが、
千晶にバレたのは
千晶がこの学校に来てからすぐの事だった。
















→ちょっと過去編。









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