飛んだサンダル
先に沈んだのは自分で
『ああ 海に落ちたんだ』って
頭では冷静に思ってるのに
体は必死に、空に向かってあがいてる
足 つった ―――
暗い水の中と
灰色の空
真っ白な壁 防波堤の上で
大声あげてる ヨッチャンの姿が見える
手 思いきり掻き回しても
水の中にいるほうが
だんだん 長くなって来て…
あ〜… うち、溺れてるんだぁ
――… 死んじゃう時って
こんな感じなんかなぁって
息 もう出来ないのに
全然、苦しくなくて
意識
無くなる前に 見たのは
なぜか噂に聞く
走馬灯とか
お父さん、お母さんの顔…
カコちゃん、アヤちゃん…
島の皆の 顔でもなくて
高い高い 防波堤の上から
迷う事なく 飛び込んで来る
『魔法使い』の 姿だった ――――…