「もしもし、黒木です。………いえ、大丈夫ですよ。どうしました?……………………………そうですか…でも、そんなに急がなくてもいいんですよ?治療するにしても、もう少し落ち着いてからでもー…………………そう…ですか…。分かりました。会う前に必ず私の治療を受けて下さい。それが条件です。…はい、はい……それじゃあまた後日………はい。」
ゆっくりと携帯をテーブルに置いた。
片手で両目を押さえると天井を仰いだ。
込み上げてきた気持ちで心が満たされ、溢れる分を吐き出した。
「先生?」
「はぁ~~~~………………………。やっぱり彼女は救世主だったよ………今なら断言できる。」
「花枝さんの事が一番大事だったんですね………。」
「…………?どうしたんだい?泣いてるのかい?」
「だって、感動してしまって………。本当に素敵な二人ですね…。」
「君の涙なんて初めて見た気がするけど?」
「私だって人並みに泣くことくらいあります!私を何だと思ってるんですか!」
彼女の初めての涙に心がざわつく。
「私もサディステックの気を持っているのでしょうか?」
「えっ?先生………何を言ってるんですか?」
「いや、いい。」
皺一つ無い真っ白なハンカチを取り出すと彼女の頬に添える。
彼女は目を真ん丸に開いてパチパチさせている。
美人系だと思ってたけど、意外に可愛い。
「せっ先生っ?!私は大丈夫ですから!」
「この涙はいつ頃止まる予定ですか?このハンカチ一枚で足りるといいのですが。」
「そんなに泣く予定はありません!!」
私は嵐の前の静けさを、こうして束の間楽しんでいた。