寝たふりをして、千春さんが眠るまで待った。

起こさないようにゆっくり寝返りをして、天井を見上げると、明かりを消した部屋は天窓からの月の光で明るく浮かび上がっていた。

真っ白なベットの真ん中に四角く降り注ぐ月光は、まるで魔法の鏡の様に輝いている。

隣で眠る千春さんを見る。

半年間もずっと、会えなかった人が今、こんなにも近くにいる。

これ以上の幸せは無いのかも知れない。

欲張ったら罰が当たるだろうか?

千春さんを過去のトラウマから解放してあげたい。

心から笑って、安心して眠って欲しい。

その為には千春さんはまた過去と向き合わなくてはいけない。

千春さんをこれ以上苦しめたくないのに………。

あんなに怯えて苦しんでいる彼を見るのは初めてだった。

きっと黒木先生は逃げずに治療しろと言うだろう。

その時、千春さんが悩んでたら私はなんて言ったらいいの?

怯える彼を前に、正論を振りかざして説得する?

いや、そんなのは自分が幸せになりたいだけのただのエゴだ。

私がどうかしたいじゃなくて、彼がどうしたいのか。

千春さんがどんな答えを出しても私は尊重しよう。

自分の気持ちを一つに決めて、もう一度瞳を閉じた所で隣が動いた気配がした。