「千春さん…本当に私が残って大丈夫だったんですか?私が居ると身体の震え酷くなるんじゃ………。」
「こんなに震えてみっともないけど、この震えは花枝のせいじゃないんだ。嫌じゃなかったら傍にいて欲しい。」
「………うん。」
何だか気恥ずかしそうで落ち着かない彼女を眺める。
「なっ何か食べる?買ってこようか?千春さんの好きな甘いものでもー」
「花枝…俺の横に来て。」
少し避けたベットの横にそっと座ると腕を引いて、お互い向かい合うように横になった。
「千春さんっ!」
手を伸ばして前髪を避けて、彼女の額の傷跡を優しく撫でた。
「この傷…俺の所為で………ごめん。」
「そんな気に病まないで。こんな傷、全然平気よ?ちゃんと治ったでしょ!嫁入り前の娘でもあるまいし大したことないわ!」
少し大袈裟に明るく振る舞っている花枝を見ると俺は堪らなくなって思わず彼女の傷跡に口づけた。
「普通の男なら責任を取って一緒になろうと言えるけど、俺にはそんな資格すら無い。」
「そんな事………」
「俺…何も出来なかったんだ。」
「えっ?」
「あの人の声や匂いを嗅ぐと体が硬直して動かなくなって…俺は子供の頃のまま、あの女の為すがまま何も抵抗できないんだ。情けない話だけどあの人が怖いんだ。」
情けない俺の心情をありのまま吐露する。
震える手を押さえるように握っていると彼女が急に俺をぎゅっと抱き締めた。