ドクドクと心臓が嫌な音で俺の中に響く。
これは警鐘だ。
今すぐ逃げろと俺の細胞が伝えている。
その証拠に先程から全身が神経にでもなったかのように小刻みに震えている。
この人を知っている。
記憶の奥底で感じていた。
日登美と名乗ったその女性は、俺の様子にもお構い無く、隣に座ってペラペラと喋り出した。
「本当に大きくなったわね。昔から思っていたけどあなたのお父様、美徳さんにそっくりだわ。本当に素敵………。」
羨望の眼差しで見つめる目が蛇の様に俺に絡みついた。
所々で肩や腕に這ってくる手はどんどんと執拗に迫ってきて俺の身体は硬直したまま動かない。
息をするのさえ辛くなってきて意識が朦朧とし出す。
「本当は私があなたのお母さんになるはずだったのよ。でも、あの女にじゃまされてしまって。あなたも私を『お母さん』って呼んでくれたじゃない?覚えてるでしょ……?」
『お母さん………おかあさん………オカアサン………お母…さ…ン………………………………』
強い頭痛と共に記憶が次々と蘇ってくる。
なんだこれは………
『私をお母さんと呼んで………どうしたの呼びなさい!!呼ばないとまた痛い事するわよ………』
嫌だ………止めてくれ!!この記憶を止めてくれ!!
頭の中は記憶の洪水となって、俺を壊していく。