早速向かおうと歩み始めた所で、主催者のこの家の主人と名乗る70代位の老人に呼び止められた。
「君がSilver Millenniumの泉君か?」
「はい。ご挨拶が遅れました。この度はお招きありがとうございます。佐藤が体調を崩しまして、失礼かと思いましたが私が代理として参りました。」
「代理にしては随分と御立派な方が来られましたな。私は桑原です。こっちは家内の日登美です。」
車椅子に乗っている桑原の後ろに、華奢で小さい女性が立っていた。
白い顔を、しっとりとした長い前髪が輪郭を覆うように隠している。
誰とも目を合わせず、小さく会釈をした。
「私は仕事からは一線を退いていますが、たまにお世話になった人をこうして招待しているんです。この様な辺鄙なところへよく御足労下さいました。ゆっくり楽しんでいってください。」
挨拶が終ったところで家主を遣り過ごそうと道を開けると車椅子を押された桑原とすれ違った。
その瞬間またもや、強い薔薇の匂いが鼻を掠めた。
堪らず口元を押さえた。
(あの夫人が薔薇の手入れをしてるのか?それにしても…強すぎる……。)
空腹に強い薔薇の香りに当てられて俺は吐き気をもよおした。
「佐伯………少しトイレに行ってくる。友川社長だけマークしててくれ。」
「分かりました。大丈夫ですか?」
「ああ、少し匂いに当てられただけだ。」