まるでミイラ取りがミイラになった………そんな私。
「私………今日は家に帰りません。千春さんも二人の今後の事、考えが決まったら連絡ください。」
出来るだけ冷静に言葉を選び、平気な振りをした。
それが私に出来る最後の女のプライド。
気づくと辺りは真っ暗になっていた。
事務所の中も外からの明かりがうっすらと入るくらいで、よく見えない。
今は千春さんの顔を見る勇気がなかったから丁度良かったのかもしれない。
薄明かりを頼りに扉へと向かう。
ガチャン…………
手を掛けて開きかけた扉が、後ろから伸びてきた手で閉められた。
「どうして…………俺の話を最後まで聞かないで勝手に終わらせようとするの?」
「…………………。」
私の背中を後ろから覆うようにして、腕の中に捕らえられる。
「俺の気持ちが分からない?」
背中に感じる温度が嬉しくて、しゃくりあげるのを止められない。
「うぅ~………ひっく………うぅ………ひっく………ひっく…………」
手首を掴まれて千春さんの方へ引っ張られる。
私のぐちゃぐちゃの泣きはらした顔が外からの明かりに照らされた。
「嫌だ………………こんな顔、見ないでっ………………。」
空いている片手で顔を隠すと、その掌に彼の手がゆっくり重なりそのまま後ろの扉に留められた。
「花枝がこんなに泣いてるのに、俺の心はこんなにもドキドキしているんだ………。」
引かれた手は、真っ直ぐ彼の胸に当てられた。
ドクドクと速い心臓の音。
「感じる?昨日の夜からおかしいんだ…………花枝を想うと落ち着かないのに、傍に居ないと不安なんだ。どんどん独占欲が強くなって、いつか花枝が俺の前からいなくなったら俺は息も出来なくなるんじゃないかと、想像するだけで怖いんだ…………。」