「その前に謝らせてください。俺は貴女を傷つけた。花枝と木暮秘書を間違えてしまいました。本当にすいません。」

美緒さんの名前が千春さんから直に聞くと、よけいに胸がズキンと痛んだ。


「………確かにそうでしたけど、人間、間違いは誰でもあります!だから、そんなに気にしなくても………」


「いえ。そうはいきません。謝るくらいでは許してもらえない事も分かっています。もし、許せないと言うのならー」


暗がりで千春さんの表情も見えない。


(何を言おうとしているの?)


声も単調で心も見えない。


(嫌だ………。)


暗闇が私の心を不安に染める。


(嫌だ!!聞きたくない!!!)


止められない思いが溢れる。


「許せないなら何ですか?!私とは終りにして木暮 美緒さんの所に行くんですか?やっぱり私じゃ駄目だったんだって気づいちゃったとか?………ははっ………確かにそうですよね?………彼女はとても綺麗ですし、スタイルもいい。悔しいけど性格も素敵でした。ちょっとした縁で結婚した私とは大違いですもの。千春さんがそう思うなら私は構いません!!だから………だから………!!」


グッと込み上げる涙に言葉が詰まるけど、暗闇で見えない分、涙だけは自由にさせた。

口を覆ってしゃくりあげる嗚咽を堪える。

私は何て事を言ってしまったのだろう。

自分から身を引くような事をしてバカだ。

昔の私だったら絶対負けを認めるようなことしなかった。

今までずっと、頑張って来たのに。

何の為に頑張ってきたの?

最初は自分の為だった。

でも、今は彼が好きだから………彼を幸せにしたかったから。
彼を幸せにして、私も幸せを感じたかった。

なのに、どうしてこうなってしまうの?

ただ、貴方が好きだから………好きになってしまったから………私の優先順位はいつからか自分から貴方になってしまった。