アパートから徒歩五分程度の駅へ向かい、始発電車に乗り込む。

そこから約一時間半、最近ハマった駆け出しの邦ロックバンドの音楽を聴きながら、窓の外を眺める。


いつもと変わらない風景。

脳内に鳴り響く、甘く優しい男性の歌声が、学校につくまでのこの時間を少しだけ癒してくれている気がした。




両親は、いない。

もっと言えば、家族すら。
生きているのかもわからないし、どこにいるのかもわからない。


幼い頃は祖父母に育てられていたけど、わたしが3歳のころに祖母が裏山の崖から落ちて死んだ。
そして、祖父もその後を追うように病死。


相次いで起こる不幸な出来事に、3歳にして家族を無くしたわたしの取引先や遺産相続などに、親戚中が忙しそうに祖父母の家を訪ねていた。


まだ幼稚園にすら上がっていなかったわたしには、人の死を理解できなくて、今でもその時の感情は思い出せない。


たぶん、悲しかったと思う。

でも、祖父母の死に対して理解ができていたからなのか、そうじゃないのか。



ただ覚えているのは、祖父母の家にやって来る人の、冷たい目。鋭い言葉。
 

幸い、祖父の遺産相続の名義がわたしになっていたらしく、引き取り手はあっさり決まった。