そして今、俺は病院にある小さな喫茶店で、洸太さんと向き合っている。


「いいの?せっかくのチャンス無駄にしちゃって」


「いいんです」


強情な俺に洸太さんは呆れたように笑った。


店のオーナーらしき、女性がコーヒーを2個持ってきてくれた。


愛想のいい笑顔に会釈を返してから、洸太さんは言った。


「余裕の表情だな。恋敵相手に」


「認めるのですね。恋敵って」


「ああ、そうだよ。俺は凛が好きだ」


まるで、今日は暑いなとでも言うかのような、さらりとした口調だった。


「最初はさ、お前から凛を奪う気でいた」


沈着冷静。クールな横顔。
だけど、その胸にはいつだって熱い情熱を隠している。


そのギャップが、きっときみの心をくすぶらせるのだろう。


「だけど、凛のお母さんに、彼女とお前の写る写真を見せてもらって、気が変わった。凛の隣はきみしか似合わない」


洸太さん本人は、恐らく、クールな自分を演じているつもりだろう。


大人な笑顔を作っているつもりだろう。


だけど、俺にはそうは見えなかった。


苦しそうに笑っている。
悔しくても泣けない気持ちが溢れている。


恋をした男の顔だ。


きっと本心は、言葉の中にはないことを俺は気づいていた。


「洸太さんは嘘が下手ですね。聞こえてます。まだ凛を諦めきれない気持ちが」


図星をさされた洸太さんは、笑顔をひっこめた。


「俺が願っているのは、自分の恋の成就じゃない。凛の幸せだけです。洸太さんに再会したとき、凛の瞳が輝きました。手術後初めてだったんです。そんな瞳をしたのは」


きみの幸せが続くならば。
俺はきみにさよならできるよ。


まっすぐ、瞳を見つめて、俺は頭を下げた。


「凛をよろしくお願いします」


信じられるんだ。


洸太さんはきみを悲しませるような、そんな、不誠実な男ではない、と。


俺は、机に自分のコーヒー代だけを残して、立ち上がった。


「ちょっ……待って。輝くん」


「何ですか?」


「俺は、凛と輝くんに付き合ってほしくて、凛にあんな風に言ったんだよ」


「知ってます。だけど、もう凛を幸せにするのは、俺じゃない。洸太さんの番です。凛を裏切ったりしたら、俺が殴り込みにいくから、覚悟しといてください」


今日を限りにきみに会いにいくのはやめよう。


きみが笑うなら俺は心に穴を空けてもいいです。