男はふふっと笑い、口を開いた。
「今では想像もつかないな」


こちらを見る、眠たそうに細められた二つの目に、一瞬どきっとしてしまう、自分が悔しい。

「…意地悪。」


そうやって私は彼の少し硬い髪を撫でる。
私とは違う、硬い髪質。


「いつも嫌な思いをしても、いつか愛する人と幸せに暮らせるのっていいじゃない?」

「いい夢だね。」


男は、薄く笑ってから私を抱きしめた。
私も腕をそっと背中にまわす。

(あ……)
また痩せた。
そう感じるたびに私は未来に訪れるであろう孤独が怖くて、目を塞ぎたくなるけれど。
この人と一緒にいるから、笑う。
口角を上げ、目を細める。

「でしょ?しかも相手は王子よ。」

温かい腕の心地よさに、ため息をもらしながら呟く。
涙はもう流れない。


「そういうこと、小さいころから考えてたんだ。」

「まぁね。」

「優菜(ユウナ)らしい。」

こんな馬鹿な話でもちゃんと聞いてくれるのは、
この男――薫(カオル)が、優しいからなのか。


それとも。

私たちに残された時間が僅かだから…なのか。