ギラギラと光る太陽に照らされ、私は審判とキャッチャー ピッチャーに一例し、打席に入る。軽く跳ね、無駄な力をぬいて構えた。ピッチャーは手を振り下ろし、手からボールが離れる。私は何の迷いもなく、バットを振りきった。
そして…


「お疲れさま、琥珀。ナイスバッティング」

ベンチに座ってる私に、そう言ってタオルを渡してくれたのは、私より背の小さい颯人。同じチームメイトで、セカンドを守っている。

「お、ありがとう。気が利くね。」

私はタオルを受け取り、ちょっと先輩っぽく言ってみると、颯人は

「俺、おまえと同い年なんだけど」

と呆れたようにため息をつく。私は「分かってるよ」とだけ言い、渡されたタオルで顔を拭いた。

「でも凄いよなぁ。女子なのにホームラン打つとか…俺も頑張らないと。」

颯人は胸元で手をグーにして、やる気をいれた。すると私の背後から、呟くような声が聞こえた。

「女子でホームランとか…怪力」

私は勢いよく振り向き、声の主を睨み付ける。声の主はやはり美咲。私達2年のピッチャー、つまり未来のエースピッチャーだ。私より少し背が高く、球も意外と速い。
私は怒ったように、低い声で言った。

「別になんて言おうが勝手だけど…そんな余裕あるならバット振れ。」

美咲は球が速くコントロールもいいが、残念なことにバッティングはひどい。
私の声を聞いた美咲は驚き、慌てながら言った。

「えっ、聞こえてた!?いや、何にも言ってないよ?」

今大きな声で「聞こえてた!?」って言ったじゃないか。
私は内心毒づきながら、振り向かせていた顔を元に戻し、
ガッカリしたように颯人に言った。

「こんなのがうちのエースピッチャーとは…。打てて、馬鹿じゃなければ最高なのに…」

颯人は頷きながら「それな」と返してきた。
美咲は小さな声で、

「二人とも酷いな…」

と言っていた。

「集合!」

部長の雄大先輩が号令をかけ、25人の部員が一斉に集まる。
そして、午後の練習が始まった。