《もしかしたらさ、俺の顔すげぇことになってんかもしれねぇ》



その声は低くて真剣で、いつものふざけた葵ではないのは分かった。

言葉の意味も、だいたいは分かる。

顔がすごいことになってるっていうことは、たぶん誰かに殴られてしまったということ。

だから、胸が痛かった。



電話越しのその寂しそうな声を聞いて私は葵を抱き締めてあげたいと思った。


私は1人で、葵に繋がっている携帯をギュッと強く握り締めた。



《おーい、美鈴?》

「…っ…」

《美鈴ちゃーん?》

「……っ」

《泣いてんの?》



なんでだろうね。
泣かないって決めたのにね。


自然と目からは涙が流れていた。



泣くことは嫌い。
何か負けたような気持ちになるから。
女の武器とやらを使ってると思われるのが嫌だから。
弱くなりたくないから。
いつも強くいたいから。



泣くことは嫌いだ。



《別に美鈴が泣くようなことじゃねぇよ》

「…っでも…」



なのに止まらないのは、どうしてだろう。
どんどん出てくるのは、どうしてだろう。



それは弱いわけじゃなくて、葵を想ってこその涙だからかもしれない。




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