いつも歩くデパート。
すれ違う人は、みんな私たちを驚いた目で見てくる。
まぁ正しくは
“私たち”じゃなくて
私の隣を歩く“彼氏”なんだけどね。
「すれ違う男、全員美鈴のこと見てんじゃねぇかよ」
その彼氏様は、変な勘違いで、すれ違う男に嫉妬してる様子。
すれ違う男じゃなくて全員が見てるのは、あなたなんだけどね。
「んな短いズボン履いてくるから変な男に見られんだよ」
ついには、あたしに説教。
葵くんの髪の色のほうが問題ありだと思うんですよ。
「お、葵じゃん?久しぶり!」
「大和さん!こんちは」
おまけに先輩はガラの悪いっていうか、ケンカ強そうな先輩とか知り合いが多い。
.
あたしの名前は
城田 美鈴(シロタ ミレイ)
今年で高校三年生になった、世界で今一番幸せ者の女子高生。
「久しぶりですね。…先輩、とび職でしたっけ?」
ガラの悪そうな先輩と話してても何の違和感のない、あたしの彼氏の名前は
佐々木 葵(ササキ アオイ)
あたしと同じく高校三年生で、あたしと同じ学校。
言っちゃ悪いけど、見た目は誰から見ても不良そのもの。
金色の髪に
右耳にピアス
首にはドクロのネックレスに
左人指し指に黒いリング
学校で有名なヤンキーも恐れるくらいの葵。
……でも皆知ってる
葵の性格が、王子様のように優しいことを。
「あぁ、つか今度学校祭来いよ。…彼女?連れてさ」
「行きます!」
「じゃ、またな!」
ガラの悪そうな先輩は静かにその場から去っていった。
.
「あの人…中学の先輩?」
「あぁ、つか大和さんのこと知らねぇの?」
「え、…うん」
さすがに、あたしだって元不良の葵と付き合ってても、ああいう系の先輩は知らないよ。
葵とは中学の時違ったから詳しくは知らないけど、中学の時は不良やってたみたいだし…
だから知ってる先輩は、ああいうガラの悪い先輩が多いってゆうか。
……まあ性格は先輩も優しいんだけどね?
でもあたしには、中学の時、面識ないような感じの先輩ばかり。
常に緊張してるわけですよ。
「まぁ、逆に美鈴が知ってたら怖ぇけどな」
「でしょ? あたしは真面目ちゃんなんだから、知ってるわけがない」
「真面目はねぇだろ」
…は?
スラッと爽やかに言ったみたいだけど、このあたしは聞き逃さなかったよ…?
.
葵の足を思い切り踏み、何もなかったかのように先を歩き出した。
「…てめっ」
「あたしよりテストの点数低い人に馬鹿って言われたくないんですけどー」
(※馬鹿とは言われてない)
「冗談で言ったんだって」
「…えっ?」
ニコッと葵は笑うと、自然にあたしの肩に腕をまわしてきた。
その腕を擬視するあたしを無視しながら先に進んでいく葵。
「そうか…、美鈴は冗談通じなかったな」
それなのに冗談を言う葵って……
なんか考えるのも疲れてきた。
肩にまわってる葵の腕を無理矢理ほどいて、葵の先を歩いた。
「あ!逃げんな!」
大声であたしにそう叫ぶ葵を、周りの人たちは冷たい目で見てた。
「もうっ、大声出さないでよ」
「お前が逃げるからだろうが」
いや、逃げてないし。
.
あれから一通りお店を廻って、最後に辿り着いたのはゲームセンターだった。
そして最初に目に入ったのは
大きいぬいぐるみが数個入っている定番のユーフォーキャッチャーだった。
その中に入っている、ピンクのテディベアに一目惚れした。
「…ねぇ、葵」
「ん?」
「キスしてほしい?」
「…は?」
ここは、あの手を使うしかない。
「してくれんの?」
「い、いよ。だ、だから、あれ取って?」
あたしがユーフォーキャッチャーの中にあるピンクのテディベアを指差すと
葵の表情が曇った。
「またかよ」
そして、そう葵は呟いた。
確か先月も同じ手を使った。
先月は何かのマグカップが欲しくて、あたしからのキスと交換条件で取って貰った。
いつもそうだった。
葵は何か交換条件が無いと、あたしの言うことを聞いてくれない事が多い。
.
それでも最後には“はいはい、お姫様”と言って取ってくれる。
「ほらよ」
あたしの手元には、さっきまで機械の中に入ってた大きいテディベアだった。
自然と笑みがこぼれて、あたしは葵の腕にがっしりと抱き付いた。
あー、この感触がいい。
何とも言えないこの感触が、あたしは好き。
そしていつの間にか、ほどよくついた筋肉質の腕に抱き付くのが、あたしの癖になってる。
「誘ってんのか、コラ」
「誘ってません」
「明らかに誘ってんだろ」
誘ってないのに、何で誘ってるなんて思うんだろ。
まず男の“誘ってる”の基準が分からない。
抱きついたら誘ってるの?
キスしたら誘ってるの?
押し倒したら誘ってるの?
ほんとに男って分からない。
.