「…なにあいつ、あたしまだ行くって言ってないんだけど」
ブツブツ文句を言いながら立ち上がった早希は、キッチンに向かい冷蔵庫から取り出した二リットルのペットボトルにそのまま口を付ける。
「随分勇ましい飲み方だね、サッキー。
…そう言えばさっき、ヤマトもおんなじ飲み方してたっけ」
母の何気ない一言に、早希は勢いよくペットボトルから口を離す。
「さっすが兄妹、仲良きことは良きことかなー」
しみじみと呟いて煙を吐き出す母をジト目で睨みつけ、早希は早々とペットボトルを冷蔵庫に戻す。
「そうそうサッキー、旅行中も常に気を緩めちゃダメよ」
「…なにが?」
くわえ煙草で意味深に笑う母の姿に、早希は首を傾げる。
「ヤマトにバレたくないなら、いつだって細心の注意を払いなさいってこと」
パチっと片目を瞑って見せた母が、煙草を灰皿に押し付けて颯爽とキッチンを出て行く。
「んじゃ、そろそろ行くんで換気扇よろしく!あっ、あと、永田くんにもよろしく言っといてねー」
後ろ手に手を振る母の背中を見つめて、早希は小さく息を飲んだ。
「…もしかして、バレてる……?」
* *