「止めたよ、一週間程!けど女手一つで子供二人育てるって意外に大変なわけよ、仕事なんてストレス貯めるために行ってるようなもんだし?でもそれ、我が子にぶつけるわけにいかんでしょ、だからこれにぶつけるってわけ」
“これ”と言って指に挟んだ煙草を掲げて得意げに笑うと、キッチンの換気扇を回してその真下で煙を吐き出す。
ゆるゆると換気扇に吸い込まれていく紫煙をしばらく眺めていた早希は、思い出したように大和に視線を向ける。
その口は未だに半開きの状態だった。
「その顔、もしツッコミ待ちだとしたらかなり腹立つから一発と言わず二、三発殴るけどいいよね?」
握り締めた拳を振りかぶった所で、大和が突然立ち上がる。
「サー子、大変だ」
いきなりのことに思わず息を飲んで数歩後退る。
「母さんが一緒に行けなくなってしまった、ということはおれ達は二人で旅行に行くしかない」
力強く言い切った大和をしばらく無言で見つめて、早希は振りかぶった拳を勢いよく振り下ろした。